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日米異文化体験のリポート

これは、もともとはDTPで友人、知人向けに発行している同名のnewsletterの記事がオリジナルです。 WWWでonlineになってしまうと、もはやofflineではなくなってしまうのですが:-)

by E. T.



Contents

吉野家風牛丼の研究アメリカで豆腐から油揚げを作る・決定版、 Mochikoで餅を作る誉める

Vol.1Vol.2Vol.3


[Gyudon]

吉野家風牛丼の研究

私は今まで、牛丼と云えば単にだし汁に砂糖、醤油、刻んだ生姜と櫛形切りの玉ねぎを入れて煮立て、そこに薄切り牛肉を入れて作っていました。それはどう贔屓目に云っても吉野家の牛丼にはほど遠いものでした。試みに「牛丼 吉野家」というキイワードで検索してみると、あるわあるわ、吉野家の味を真似ようとした記事がごってり。「牛丼なんて安いんだから、苦労して贋作作るより食べに行けばいいじゃん」と思いましたが、私もファーストフードの安い鶏の唐揚げを真似しようとしたことがあるので、何のことはない同罪でした。

しかし、インターネットで見つけた「吉野家類似品の作り方」にはどれも疑問を感じます。先ず、吉野家牛丼の味を真似るために、ベラボーな手数と材料を使っているのです。あるレシピでは白ワインを使い、あるものは白ワインと日本酒、あるものは赤ワイン。干し桜えびを使うもの、固形スープを使うもの。ある料理研究家は三温糖(グラニュー糖になる一歩手前の茶色い砂糖)を煮詰めてだし汁のベースにしています。あるレシピは「一般の玉ねぎでは甘味が不足」として、牛脂で玉ねぎを飴色になるまで炒めるようになっています。

私は、安価な牛丼にワインを入れたり三温糖を煮詰めたりするようなことをしたら、吉野家は絶対につぶれると思いました。材料費、手間賃双方によって。吉野家チェーン各店には、冷凍された肉、だし汁、玉ねぎなどの袋が本社工場から届き、店員はそれをただお湯で解凍し、鍋で煮るだけだそうです。複雑なことはやっていません。本社工場でも、せいぜい安価な調味料を混ぜる程度ではないでしょうか。それ以上やったら、ファーストフードの値段を超えてしまうでしょう。

類似品のレシピにも参考になる点はありました。
・塩を入れる(すき焼きの延長ですと、塩など想像もしません)
・薄口醤油を使う(肉と汁の色を薄く保つため)
・生姜は摩って入れる(刻んだものより風味が増す)
・ガーリック・パウダーを入れる(コクを増すため?)

どのレシピも苦労しているのが、コクのある甘みを作り出すことでした。桜えびも三温糖も玉ねぎを炒めるのも、どれも風味のある甘みのための工夫です。私は、その隠し味は帆立貝柱の干物だと断定します。「崎陽軒のシウマイ」に入っている、アレです。帆立貝柱の干物は、独特の豊かで深みのある甘みを加えてくれます。干し桜えびを考えた人はかなりいい線行ってたのですが、もう一歩及びませんでしたね。玉ねぎを炒めるというのは名案です。吉野家の本社工場が玉ねぎを炒めているとは信じられないものの、でも確かに吉野家の牛丼に入っていた玉ねぎは生っぽくなく、飴色をしていた記憶があります。玉ねぎは普通の油よりも、牛脂を使う方が綺麗な飴色になります。

日本では大きいスーパーだと「牛丼用薄切り牛肉」を売っていて、中には「タレ付き」というものまであるようです。それらの肉を見たことはないのですが、本当に薄いのでしょうか?私はWalmartの通販で$30.00で買ったフードスライサーで、カンナ屑のような薄さにスライスしています。半解凍などにせず、冷凍庫から出したままのものならカンナ屑の薄さに出来ます。吉野家が初めて脚光を浴びた頃、「アメリカで捨てられる骨からこそげとった肉」と評されました。薄くて縮れている辺りはいかにもそんな感じです。カンナ屑のような牛肉は吉野家風に縮れます。

私のレシピです。と云っても分量は書けません。何故なら、「吉野家でも新開店の店の牛丼は旨くない。煮詰まって注ぎ足し注ぎ足しされて初めてあの味になる」という記事を読み、私も注ぎ足ししているからです。日によって味が変わるとも云えますが、以下の材料でかなり近いものが出来ます。

[Slicer]

・だし汁
・砂糖 少々
・薄口醤油
・塩 一振り
・ガーリック・パウダー 少々
・帆立貝柱の干物 半個とその戻し汁
・生姜 一かけ(摩っておく。多めに加える)
・玉ねぎ (半月切り。炒めておく。これも多めに)

以上はどれも高くつく素材ではありません。日本酒を入れるレシピもありますが、吉野家が日本酒を使っているわけはないという観点から入れていません。帆立貝柱は特殊かも知れませんが、駅売りの「崎陽軒のシウマイ」にも入っているくらいなので、高級過ぎるわけでもないでしょう。

牛丼作りに専念して驚いたのは、肉の量が結構要るということです。カンナ屑のような薄切り肉を皿に盛ると、一見相当な量に思えるのですが、煮て丼に盛ると「牛丼の並」程度でしかありません。「牛の大盛り」にするには120 gほどの牛肉が必要です。

難しかったのは味の濃さです。汁の味を見て丁度いいと思うと、結果的にかなり薄いのです。牛肉は、火が通ればいいという短い時間で煮終わらなければいけないせいでしょう。味見ではかなり濃い甘みと醤油味と生姜の風味でなければなりません。色々な部位の牛肉を試しましたが、上の方法ですと安い部位でも結構食べられます。そりゃいい肉は美味しいですが、それでは吉野家の牛丼ではなくなってしまいます。中くらいの肉を超薄切りにすることで堅さも感じず、肉よりも汁の味で勝負という吉野家風が現出するのです。




アメリカで豆腐から油揚げを作る・決定版

「豆腐から油揚げを作る」方法は『男の趣肴』サイトの写真入り「油揚げ」レシピのページ(http://www.ajiwai.com/otoko/make/aburaage.htm)を御覧下さい。基本的な作り方と考え方はそちらにお任せし、ここでは私が試行錯誤から学んだことを付帯情報としてお伝えします。

[Age][Age2006]

今回この項を“決定版”と銘打った理由は、写真で一目瞭然かと思われます。右は昨年のもので、硬さの残る「薄揚げ」のたぐいでした。左の2006年版は堂々たる「油揚げ」です。柔らかく、しなやか。『赤いきつね』に入っているようなものとは比べ物になりません。ま、あちらは乾燥食品、こちらは生ものですから較べちゃ可哀想ですが。

今回仕上がりが向上した理由は、たった一点。揚げる前に電子レンジでチンするというアイデアです。御存知のように電子レンジには脱水作用があります。また、冷たい豆腐ではなく温かい豆腐を揚げるとふわっとするかも知れないという期待もありました。大成功でした。


【豆腐選び】

・油揚げを作るには、揚げた時に膨れる豆腐を選ばなくてはなりません。私はこれまで、アメリカで販売されている7メーカーのいくつかの種類(FirmとかExtra Firmなど)を試してみましたが、現在のところ油揚げ作りに使える豆腐はたった二種類しか発見出来ていません。

[新興]

・新興(中国系、新興食品公司、英名はThe Soy Shop Inc.、本社:ジョージア州)これは右の写真のように黄色いパックで「新興」という文字が入っています。中国式のFirmしかないようですが、これは完璧に膨らみます。ただ、最初から穴が開いていたりして、綺麗な油揚げにならないのが欠点。ジョージア製なので、西海岸やカナダには出回っていないかも知れません。

[Marjon]

・Marjon【左の写真】(米国系、Marjon Specialty Foods, Inc.、本社:フロリダ州)"Marjon"が「マージャン」に読めますが、実はMarciaとJohnという創業者夫婦の名前を合わせたもので、二人とも白人です。最近、当市で「新興」に変わって見かけるようになったもの。Firmを使ってみましたが、二周りほど大きく左右に膨らみます。

・Nasoya(中国系、Vitasoy USA Inc.、本社所在地:マサチューセッツ州)オーガニック豆腐で美味しいのですが、FirmもExtra Firmも全然膨らみません。

・Azumaya(中国系、Vitasoy USA Inc.、本社:マサチューセッツ州)Azumayaは、Vitasoy USA Inc.がNasoyaの他に買収したもう一つの豆腐メーカー。Firmを試しましたが膨らみませんでした。中国系なら膨らむというものでもないようです。

・Mori-Nu(森永乳業の子会社、本社:カリフォーニア州)独特の小型の紙箱に入っているもの。これは全て絹漉しのようで、Firmであろうと何であろうと膨らみません。

・Hinoichi(ハウス食品系列、本社:カリフォーニア州)Firmを試しましたが膨らみません。

・Pulmuone(韓国系。本社:カリフォーニア州)Premium Firmというのを試してみました。全然膨らみませんでした。揚げると低温でも固くなり易い。中に隙間や穴が多く、いい豆腐とは云えません。

とにかく、冷や奴で食べたいようなそのままで美味しい豆腐は膨らみません。「野菜炒め用」とかで売られているFirm(硬め)がいいようです。私のこれまでの経験による独断ですが、オーガニック豆腐も駄目です。これも食べて美味しいのですが、膨らみません。

これをお読みの方で、他のブランドで膨れる豆腐を御存知の方はメールでお知らせ下さると幸いです。他の読者への情報として付け加えさせて頂きます。


【スライス】

・スライス法ですが、私は「豆腐スライサー」を作りました。下の写真のように小型の木製まな板に二本のネジを止め、そこに針金を巻いただけの代物です。豆腐のリンボー・ダンスという感じで、針金のこちらからあちらへスライドさせるだけ。一枚スライスするごとに豆腐を元の位置に戻し、同じことを繰り返します。往復させてもいいのですが、Firm豆腐にはどうも切り易い方向、切り難い方向があるようです。

[Slicer][Slicer_2]

・厚みはこれまで1 cmにスライスしていましたが、電子レンジで温めてから揚げる場合にはもっと厚い方がいいかと思い、次は1.3 cmにスライスしてみました。この時かなり薄い半端が出まして、結果的に1 cm以下のその薄さが油揚げのしなやかさを作り出してくれることに気づきました。私は8 mmを推奨します。いずれにしても、揚げた豆腐が冷めると急激に薄くなることをお忘れなく。


【脱水】

・水抜きは「男の趣肴」サイトに書かれているように500 g程度の重さで二時間かける必要があります。500 gというのは非常に軽い重量ですが、作るのは「揚げ出し豆腐」ではないので、あまり重くすると豆腐の膨らむ弾力を損なうことになります。

・8 mmにスライスした豆腐を一枚ずつペーパー・タオルにくるみ、500 g程度の重さをかけて二時間脱水します。
・脱水した豆腐を(重しは取り除き、紙にくるんだまま)一晩冷蔵庫に入れておきます。(2006年7月07日改訂)【註1】


【調理】

・二つの鍋を用意し、それぞれで油を熱し、一つを110℃、片方を160℃にします。以前は100℃と140℃と書いていましたが、100℃では膨れ始めるのが遅いことに気づきました。(2006年6月17日改訂)
・最初の豆腐をペーパー・タオルにくるんだまま電子レンジに入れ、Highで10秒チンします。【註2】
・豆腐が温かいうちにすぐ110℃の鍋に入れます。豆腐が沈んでいる間は鍋の底に焦げ付く恐れがあるので、頻繁に揚げ箸で動かすようにします。
・豆腐が浮かんだらひっくり返します。110℃を維持しながら揚げていると、次第に四隅から膨れて来ます。【註3】 豆腐が蕁麻疹に罹ったかのように、あちこちが膨れて来ます。真ん中の膨らみが遅いので、私は揚げ箸で豆腐全体を油に沈めるようにしています。「もっと膨れろ!もっと膨れろ!」と念じながらじっくり揚げます(この作業が最も重要)。

・全体が膨れたら豆腐を160℃の鍋に移し、くるりくるりと五・六回裏返します。最初に色が白っぽくなり、市販の油揚げのように表面がパリパリになります。この段階でキツネ色になるまで揚げては揚げ過ぎです。五・六回裏返して引き上げると、余熱で自然にキツネ色になるので御安心を。(2006年6月17日改訂)

・出来上がった油揚げは、ラップしてチンしたり煮たりすると、とても柔軟になります。


【註1】 冷蔵庫には脱水作用があります。なお、冷蔵庫に置く場合、上の方だと豆腐を凍らせてしまいますので(私がやりました)、野菜入れに近い最下段の方にします。

【註2】 電子レンジにも脱水作用があることに注目。豆腐を裸でチンすると、四隅が硬くなってしまい膨れなくなる恐れがあるので、ペーパー・タオルにくるんだままチンします。筆者は10秒、20秒、30秒、40秒とテストしましたが、最も膨らんだのは10秒でした。30秒以上だと豆腐が縮んでしまいます。

【註3】 豆腐(使用したのは'Marjon'ブランド)の原寸は縦11 cm×横8.5 cmでしたが、それぞれ2 cmずつ膨らむ結果となりました。この段階で満足してしまうと、スライスした時の厚みより薄い油揚げしか出来ません。次の段階の「厚みを増す」作業を気長にやらないと、本物の油揚げのように中が空洞にならないのです。(2006年6月17日改訂)




[Mochi]

Mochikoで餅を作る

外国に住んでいると、時折、無性に餅が食べたくなるものですが、アメリカの場合、大都市の日系食料品店が利用出来る人でないと出来合いの餅は手に入りません。

「Mochikoで餅が出来る」という話を耳にしました。Mochikoとはカリフォーニア州のKoda Farmsという農園が製造している、餅米を小麦粉のように微細な粉末にしたものです。インターネットで検索しましたが、ヒットしたのは伝聞による作り方で、作業を始めたもののとても最後までやり通す気がなくなるようなひどい情報でした。Koda Farmsに問い合わせたのですが、彼らはMochikoから通常の餅を作ることは出来ないと考えており(ココアなど色んな混ぜ物をした変わり餅を推奨)、私への返事には「通常の餅を作るなら、当農園の餅米を使って電気餅つき器を利用してくれ」とありました。

Mochikoを販売している食料品店の韓国人女性オーナーに聞きますと、「電子レンジを使って、Mochikoで立派な餅が出来る」と断言、メールでレシピを送ってくれました。しかし、彼女のレシピにも曖昧な点があり、すぐには“立派な餅”は出来ませんでした。以下の作り方は、彼女のレシピをベースに、私の七回以上の“実験”結果をまとめたものです。

以下の作り方ですと、味も粘りも最高の餅が作れます。ある日本婦人から餅米で作った自作の餅を頂いて食べ較べてみましたが、Mochikoによる餅の方が格段にフレッシュな味でした。皮肉な結果ですが、事実です。


【材料】

・Mochiko 2カップ(五〜六個の餅が出来る)
・水 1+2/3カップ
・砂糖 小さじ一杯
・塩 小さじ2/3杯

【手順】

1) 耐熱容器に油をスプレーし、ペーパー・タオルで軽く伸ばします。餅が容器にくっついて無駄が出ることを防止したいのですが、しかし結局くっつきますけどね:-)。

2) 容器に全ての材料を入れてよく混ぜ合わせます。

3) ラップし、楊枝か串で三〜四個の穴を開けます。

4) 電子レンジを「高」の設定で、四分加熱します。

5) 容器を取り出し、中から吹き出る熱風で火傷しないように気をつけながらラップをめくります。外側が固く、内側が柔らかくなっていますので、全体が均一になるように入れ替えます。この段階では固いですが、間もなく柔らかくなりますので御心配なく。

6) 再びラップして、また四分加熱します。

7) 上の5と同じことを繰り返します。

8) 再びラップします。もし、必要なら新しいラップに取り替えます。今度は二分だけ加熱します。

9) 餅を丸めます。片手に油をスプレーし両手をすり合わせてから握ると餅が手にくっつきません。まな板に、くっつき防止としてMochikoを薄く敷き、その上で完成させます。

10) 柔らかい餅がお好きな方は、このまま一個ずつラップして冷凍保存します。餅を焼いた時に表面がやや固いのがお好みであれば、数時間室温で乾燥させてからラップして冷凍保存します。


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【御注意】

・手順2の混ぜ合わせる作業ですが、フードプロセッサーのパン生地用ドウ・ブレードを使って混ぜると、非常にきめ細かい餅が出来ます。しかし、完璧に混ざり過ぎて、焼いても餅が膨らみません(中に空気が無いので)。膨らまない餅なんてつまんない…というわけで、私は手作業で混ぜています:-)。

上記の日本婦人にこちらの餅を進呈したところ、「粘りがない」と云われました。ちぎろうとすれば伸びますが、「餅つき器」の粘りには及ばないのかも知れません。口惜しいので、近日中にもう一度フードプロセッサーでこねる作り方を試してみます。御興味のある方は、一週間後ぐらいにもう一度お越し下さい。(2004年12月3日記)

フードプロセッサーで五分ほど練ってみました。膨らまないわけではありませんが、入道雲のように高くはなりません。お雑煮にして箸でぶら下げてみますと、一応伸びますが長ぁ〜くは伸びません。お米としての組織を粉砕して微細な粉にしてあるわけですから、炊いた餅米の粘りは出ないのでしょう。なお、後で聞いたら餅つき器では20分も練るそうです。五分では短か過ぎたのかも知れません。次回はフードプロセッサーで20分練ってみようと思いますが、いつになるか分りません。何しろ、餅が溜っちゃってますので:-)。(2004年12月11日記)

ついにフードプロセッサーで20分練ってみました。膨れますが、これは餅を丸めた時の空気の混入具合によるみたいです。練り方とは関係ないようです。粘りは出ましたが、少ない水加減で作ったお団子みたいな感じで、ブッツリとした固い歯応えになってしまいました。フードプロセッサーで20分練る意味はありませんし、そもそもフードプロセッサーを使う必要もないようです。器具の掃除も大変だし…。手で充分です。(2005年10月31日記)

・手順4〜8は、計十分の加熱時間なら五分+五分などでも良さそうに思えますが、これでは一回が長過ぎて容器の縁に近い方が固くなり過ぎます。うまく混ざらなくなり、凸凹の餅になってしまいます。逆に一回の加熱時間を短くし過ぎても、餅がいつまでも固くなりません。

・以上は当家の電子レンジによる結果であり、あなたのレンジの性能では異なる結果が出るかも知れません。その場合は、温度の設定、加熱時間、水の量などを調節してみて下さい。

・私は冷凍された餅をそのままオーヴン・トースターのBake(焼く)モードで焼き、膨らみ始めたらBroil(あぶる)モードで焦げ目をつけています。




誉める

私が住んでいる町に神戸生まれの日本婦人ミッチーさん(73歳)という方がいます。日本で米軍人と知り合い求婚されたものの、軍の命令であちこち転々とするのは嫌だということで、彼が除隊するまでOKしなかったとか。めでたく結婚し、当地Meridianへ。歯科技工士の仕事などを覚えたり、教会の聖歌隊の一員になったりしたそうです。

数年前、ミッチーさんは御主人を亡くされました。日本の親戚・友人達は「日本へ帰って来なさい」と勧めたそうですが、ミッチーさんは「アメリカが好きだ」と帰る意思はありません。

「だって、日本の男は私のことブス、ブスって云う。そりゃあブスだから、そう云われても仕方が無いけど、アメリカの男は違うのよね。ブスなんて云わない。『髪が綺麗だね』とか、いいところを探して誉めてくれる。

日本は親戚だのなんだの、しがらみが多くてとてもじゃないけど面倒臭い。アメリカにはなあんにもしがらみが無いから、サバサバしたもんよ。日本なんかへ帰れますか。ずっと、こっちにいるの」

日本の男が女性に面と向かってブスというのは、よっぽどの場合だと思われますが、しかしアメリカ人との対比ということではとても示唆に富んだテーマだと思います。日本人は、男性に限らず誉めるのが下手です。多分、文化のレヴェルが高いため目、耳、舌が肥えすぎて“本物志向”が強く、どうしても批判的になってしまうのではないでしょうか?例えば、ベルリン・フィルの演奏には感動し、オーケストラが来日すれば何日も並んで入場券を買ったりするが、地元のアマチュア・オーケストラなどには鼻も引っ掛けず、応援したりする気はさらさら無い…とか。基準が高いので、自分を含めて誰彼も容赦しない。「英語がお上手ですね」と云われれば、「いや、私などとても…」と謙遜し、しかし他人の英語は批判する。

アメリカ人は“誉め上手”です。少年野球など見に行くと、親の声援は凄いものです。それが、「かっとばせ!」だの「頑張って!」じゃなくて、「いいスウィングだ!」、「よく選んだ!」とか、当人が自信を持てるようなポジティヴなかけ声です。小学一年生ぐらいのヨチヨチ野球でも「随分大袈裟な…」と思われるようなことを云います。

料理でも、園芸、手芸、お絵描き、なんでも他人のやっていることはいいところを見つけて大袈裟に誉めます。お世辞や、おべんちゃらでなく、自然に出て来る台詞のようです。カミさんの電話を聞いていると、"What a good idea!"、"That's a great idea!"とかひっきりなしに云うので、すぐ何か画期的なことが持ち上がるのかと思うと、後で当人は何の話題だったかケロッと忘れている始末。相当な「ふくらし粉」の量で誉めているので、実際には大したことではないわけです。私の目には草ぼうぼうの他人の庭なのに、カミさんからはいくらでも誉め言葉が出て来ます。学校の先生やコーチなども、多分誉めることで教育を進めている筈です。

ひるがえって私の場合、「いつも誉めるよりもけなすのが得意だったなあ」と反省しています。いくら相手をより高いレヴェルに押し上げるのが目的だと云っても、誉められて自信をつけるのとけなされて発奮するのでは180度違います。日本のように学校や組織内の人間関係が密なところ、特に終身雇用の会社内とかであれば、けなされて発奮する確率は高いかも知れませんが、発奮しない場合だってあり得ます。「評価されてない」、「何だ、あの野郎!」となり、結局ギヴ・アップすることにもなりかねません。そこへ行くと、「誉める」のは相手が天狗にならない程度であれば、何も問題ありません。何事もポジティヴでありたいものですね。


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